「表現行列」では、線形写像を行列(表現行列)を使って表す方法を見ました。今回は、別な基底を使って線形写像を表したときに、表現行列がどのように変化するのかを考えます。これは基底変換行列と表現行列に慣れるのに良い練習だと思います。
目次
新たな基底を導入する「表現行列はどのように変化するか?」
ここでは、線形写像 $\varphi$ の定義域 $V$ と行き先(終域) $W$ に同一の基底 $\mathcal{A}$ を使います。このとき、$\mathcal{A}$ に関する表現行列 $A$ は、任意の元 $\vec{v}\ (\in V)$ に関して、
$$A[\vec{v}]_{\mathcal{A}}=[\varphi(\vec{v})]_{\mathcal{A}}\ \cdots ①$$
という座標の関係が成り立つのでした。図で表すと、こんな感じです。
続いて、定義域と終域に、基底 $\mathcal{B}$ を入れてみます。この基底 $\mathcal{B}$ に関する $\varphi$ の表現行列を $B$ とすると、こちらも任意の元 $\vec{v}$ について、
$$B[\vec{v}]_{\mathcal{B}}=[\varphi(\vec{v})]_{\mathcal{B}}\ \cdots ②$$
という座標の関係が成り立ちます。
式①と式②から、表現行列 $A$ と $B$ の関係を調べます。このままでは連立できないため、基底 $\mathcal{A}$ から $\mathcal{B}$ への基底変換行列 $P$ を使います。この $P$ を使った基底の関係は
$$\underbrace{(\mathcal{B}の基底)}_{\mathcal{B}}=\underbrace{(\mathcal{A}の基底)}_{\mathcal{A}}\ P$$
のように書けましたが、ここでは任意の元に関する座標の関係が欲しいので、$V$ の元 $\vec{v}$ と、$W$の元 $\varphi(\vec{v})$ に関する2つの式
$$P[\vec{v}]_{\mathcal{B}}=[\vec{v}]_{\mathcal{A}}\\P[\varphi(\vec{v})]_{\mathcal{B}}=[\varphi(\vec{v})]_{\mathcal{A}}$$
を使います。これらを①式「$A[\vec{v}]_{\mathcal{A}}=[\varphi(\vec{v})]_{\mathcal{A}}$」の両辺に代入して、
$$AP[\vec{v}]_{\mathcal{B}}=P[\varphi(\vec{v})]_{\mathcal{B}}$$
基底が $\mathcal{B}$ へ変わりました。最後に、この右辺に ②式「$[\varphi(\vec{v})]_{\mathcal{B}}=B[\vec{v}]_{\mathcal{B}}$」を代入することで、
$$AP[\vec{v}]_{\mathcal{B}}=PB[\vec{v}]_{\mathcal{B}}\\\ \\\therefore{}AP=PB$$
を得ます。この $AP=PB$ という関係は、$[\vec{v}]_{\mathcal{B}}$ から $[\varphi(\vec{v})]_{\mathcal{A}}$ への対応を見る、と考えても得られます。$[\vec{v}]_{\mathcal{B}}$ の基底を $\mathcal{A}$ へ変換するために左から $P$ を掛け、それを $\varphi$ で送るためにさらに左から $A$ を掛けることを考えると、
$$[\varphi(\vec{v})]_{\mathcal{A}}=AP[\vec{v}]_{\mathcal{B}}$$
これとは別の道順でも対応は考えることができます。先に $[\vec{v}]_{\mathcal{B}}$ を $\varphi$ で送るために左から $B$ を掛け、それの基底を $\mathcal{A}$ へ変換するために左から $P$ を掛けると、
$$[\varphi(\vec{v})]_{\mathcal{A}}=PB[\vec{v}]_{\mathcal{B}}$$
となります。
新たな基底の導入による表現行列の変化
線形写像 $\varphi:V→W$ について、
- 基底$\mathcal{A}$に関する表現行列を$A$
- 基底$\mathcal{B}$に関する表現行列を$B$
- 基底$\mathcal{A}$から$\mathcal{B}$への基底変換行列を$P$
とする。このとき、次式が成り立つ。
$$AP=PB$$